​九頭龍の宇宙
The Cosmos with Nine Dragons

​そら

2010 / マリス技法(砂   アクリル絵の具   メディウム) / 138×130.5(㎝)
2010  / Maris ( sand, acrylic paint, zinc plate) / 138.4×130.5(cm)

棋譜監修:有村比呂司(財団法人 日本棋院 棋士)

アドバイザー:成島奈津子 ( 囲碁インストラクター)

 九頭龍は新しい世界が始まる時に顕現するといわれます。中央の天元には水晶の半球が配され、そのなかに新な宇宙を表すかのように星ぼしが目映く輝いています。

壮大な広がりと神秘的な美しさを持った絵

一目見た瞬間、圧倒的な存在感に心を打たれました。アートはパッと見て感じとるものですね。囲碁にも共通するところがあります。碁と言うと、とかく「読む」ことだけが強調されがちですが、じつは、まず直感でとらえて、それから読み解きます。ですから、やはり感性が大切です。

この絵にはみごとな「大宇宙」が描かれていると思いました。しかも秀策の碁を九頭龍で表現する、そのアイディアと言いますか、着想に感心しました。壮大な広がりと神秘的な美しさを持った絵なのですね。

このような芸術の存在が、これまでなんとなく疎遠だった方や海外の方にとっても、囲碁の世界に近づきやすくするのではないかと期待を抱かせてくれます。これまでの長い囲碁の文化史でも、おそらく類のない試みでしょう。本当にすばらしいと思います。

武宮 正樹(財団法人 日本棋院 棋士九段)

この絵は囲碁史に残る妙手「耳赤の一手」を題材にして描かれています。

囲碁は、盤上が天空に、黒と白の石が星に見立てられます。数々の星たちが行き交い、息づかいする様は、人の世に似て古今多くの囲碁人を魅了してやみません。時には囲碁史に残る妙手も生まれ、それらは盤上の芸術と称されています。

天空にうごめく龍たち。右下隅の龍は打ちひしがれた姿。なにげなく見えた光明が、中央の龍によって今まさに盤全体に輝こうとしています。天賦の才が強い意志を持った龍となって現れた瞬間です。この龍こそ時を超えて、若き日の本因坊秀策の姿を彷彿とさせます。この龍は幾多の苦境をはねのけ、凛としています。

調和の取れた威圧感はすでに名人の風格が備わった姿でした。相手は動揺し、その耳が赤くなったと伝わっています。耳赤の一手を境に形勢は不明から、徐々に傾きました。

村瀬 利行(囲碁評論家)

 2010年の5月、個展のためNYに滞在していた高橋さんから、私にメールが届きました。次回の作品を模索する最中「囲碁とは絵を描くように打っていくものですよ」と私が以前お話ししたのを思い出し、その言葉から稲妻に打たれたような感覚を受けたというのです。そして「囲碁の棋譜をイメージ絵をマリスで描きたい」とおっしゃるので、本因坊秀策の『耳赤の一手』をお勧めしたのでした。

 高橋さんは、私が以前紹介した友人の成島さん(囲碁インストラクター)からアドバイスを受け、『耳赤の一手』となる127手目までの棋譜と最終棋譜の資料を手に、それからは毎日数時間その二つをただひたすら見つめるのみ。一ヶ月後、夜空を何気なく仰いでいると、棋譜が五頭の龍に見立てられることに気づき、すぐさま木火土金水の龍で127手目まで、さらにはその未来までも含めて龍の姿の原案図を描くことに。成島さんに確認をお願いし、「他にも四頭の白竜が四隅にいるような気がする」と話すと、今度は彼女がその四頭を原案図に加える手助けをされたとか。その後二人で並々ならぬ努力を重ね、九頭の龍の姿をひとつひとつ丁寧に解釈・解明し、磨きをかけて完成させたのがこの作品です。

 成人後に視力を失ってから囲碁を覚えた私にとって、この作品の誕生に立ち会えましたことは、望外の喜びと言えましょう。

柿島光晴(NPO法人日本福祉囲碁協会)

©Maris Art Project

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